百瀬響『文明開化 失われた風俗』

文明開化 失われた風俗 (歴史文化ライブラリー)

文明開化 失われた風俗 (歴史文化ライブラリー)

江戸から東京へと変る世の中を書いた本は多数あるが、川添登『東京の原風景』、小木新造『東亰時代』、榧野八束『近代日本のデザイン文化史』などが、物質的な変化を扱っていておもしろい。本書は、違式かい違条例という、風俗習慣の変更を強制した条例にのみしぼって江戸から明治への変化を見ていこうという本である。

図版資料も豊富で、とくに違式かい違条例を庶民に分かりやすいように解説した当時の絵ビラなど、いくら見ていても飽きない。しかし、違式かい違条例自体のおもしろさに比べて、分析にしつこさがなく、そこのところが残念である。

違式かい違条例には、裸体、入れ墨、混浴の禁止といった、日本人が外国人によって野蛮人と思われるのではないかという、外部化されたオリエンタリズムの視線から見た、身体にまつわる禁止事項のみならず、火事以外の乗馬の禁止や、無検印の車船の禁止、電信戦を破損しないための往来での凧揚げの禁止など、近代の都市システムに関する禁止事項も混在しており、まさに混在しているという表現が相応しいように、並びが無秩序なのだ。

無秩序と言う表現は正しくなく、そこには近代の博物学的ではない分類方法が生きているというべきなのかも知れない。しかし、いずれにせよ、これは禁止事項であるとともに、当時の人々が生活を認識するまなざしと方法論でもある。そこのところまで踏み込んでもらいたかったと思う。