佐藤達生『図説西洋建築の歴史』

図説 西洋建築の歴史 (ふくろうの本/世界の文化)

図説 西洋建築の歴史 (ふくろうの本/世界の文化)

西洋における記念碑的な建築を二つの系統にわけて、非常に分かりやすく解説している。すなわち、柱によって「支える」古典系の建築と、壁によって「囲う」中世系の建築である。その二つの系統が、入れ替わることによってヨーロッパの建築史が構成されているというストーリーが展開されている。

古典系と中世系の建築はそれぞれ、アルプス山脈の南と北の風土を反映しており、暖かく降雨量の少ない地域の古典系は重さを出し、寒く雨量の多い地域の中世系は内部に光を取り込むことに腐心したというのも、なかなか明快な説明で面白い。そもそも、ギリシア神殿では神殿の前、すなわち外で儀式を行い、ゴシック聖堂では中で儀式を行ったわけだから、それを風土と絡めて論じていくことは非常に説得力に富む。

入門書のように見せかけて、実はかなり建築史の知識が無いと楽しめない本で、手に取る人と、本来の読者が乖離してしまっているのは残念である。用語集などが必要であったろう。また、図版が多いのは非常に喜ばしいが、話をよりシンプルに展開して、二つの系統の入れ替わりというところに焦点を絞るためには、もうすこし、取り上げる建築を象徴的なものだけに絞り込み、ひとつひとつをより細かく論じていく必要があっただろう。

それに、そもそも、二つの系統で明快にわけていくというアイディアは悪くないのだが、詰めが甘いようにも思われる。例えば、ローマの建築=古典建築が、構造としてはギリシアとは全く別物であり、壁で「囲う」建築でありながら、従来の区分に従って古典建築の枠の中に入れてしまっていることなどである。今までの様式での分類ではなく、あるいは、尖頭アーチや飛び梁といった構造でもなく、「支える」と「囲う」のせめぎ合いとして歴史を構成するのであれば、思い切った歴史の語り直しが必要であろう。

また、そのことと大きく関係するが、中世系の建築をロマネスクからはじめてゴシックで終わりにしてしまっているために、ローマとロマネスク、ゴシックとルネサンスの間の断層が自明視されており、つながりについての説明が不足しているのは否めない。これは決定的な欠点でもある。

果たして「支える」と「囲う」という二つの要素が良いのかという疑問は最後まで残るものの、著者自身が古代、中世、近代という、前代を否定するルネサンス的な歴史概念に捕われきっていることが一番の問題点であろう。そういった本質的な問題点を抱えつつも、建築の歴史を概観するには、最良の書の一つであることには変わりない。