難波功士『創刊の社会史』

創刊の社会史 (ちくま新書)

創刊の社会史 (ちくま新書)

著者自ら「フェチの戯言と創刊号のつぶやきに耳を傾けるタイムトリップ」と言っているように、様々な雑誌の栄枯盛衰をクロニクルにとりあげた新書らしい新書である。

ただ、それだけの仕事であっても、これまでこのように社会背景をきちんと捉えて並べた通史はなかったのだから非常に価値はある。今後は、戦後日本のサブカルチャーを論じる際に、辞書的な使われ方をされることであろう。

この本は、もともと『族の系譜学』のスピンオフである。『族の系譜学』においては、著者はきちんと問題構制についてページを割き、ゴフマンのフレームアナリシス理論を意識しつつ、メディアと、実際の現象と、メディアの受け手の三者の関係性からさまざまなファッションやブームについて通史的に議論をしていた。

一方、この本は、あえて、そういった理論的な枠組みを放棄している。おそらくそれは、まず固定された視点で通史を形成する前に、応用研究の土台となる基礎的なデータの提供を目指したからではないだろうか。

雑誌の歴史的研究は非常に難しい。なによりも資料が残されていることが少なく、現在も発行を続けている出版社に有利な歴史が形成されやすい。さらに、記述する側も、自らの雑誌体験からはなれて記述することは困難だし、自分から遠くはなれた雑誌はリテラシーがないので読むことができない。それゆえ、本書も、著者の雑誌体験とそれによって構築された偏ったリテラシーから離れることはできていない。当然のことではあるが、読む側は意識しておかなければ行けない。