藤森照信『建築史的モンダイ』

建築史的モンダイ (ちくま新書)

建築史的モンダイ (ちくま新書)

書き散らかしたような文章がほとんどで、どうしてそこで話を終えてしまうのかと言いたくなるような小話めいた文章が多いのだが、その分、藤森さんの考えの萌芽がつまっていて、頭の中を少しだけのぞいたような気にはなれる。

本人も文中で再三述べているのだが、なによりも自分で設計をし始めるようになってから、浮かんできた疑問や、思わずした発見から建築史を練り直そうとしているライブ感が伝わってくる。実際に手を動かしてみてはじめて分かることもあるだろうし、手を動かしてみて、分からなくなったこともあるだろう。

本人は人がなぜ建築を始めたのかという原初への問いかけと、近代に興味があると断言しているが、茶室の成立と、天守閣についての話が面白かった。無責任になれる分だけ大胆に論が展開できるのかもしれない。

茶室については、千利休は何をしたのかという議論なのだが、茶室に火を持ち込んだのではないかというのが藤森さんの説だ。なるほど、それは鋭いようにも思う。

たかが火のようにも思えるが、柳田国男の火の分裂の議論と考え合わせてみると面白いかもしれない。藤森さんは、穢れたものを武士の空間に持ち込むことに着目していたが、火の管理者が誰から誰に移ったのか、なんてことも考えてみると、千利休のやったことがいかに江戸時代へとつづく価値の転換であったのかが見えてくるようにも思う。

天守閣については、白くて巨大な建物は天守閣以外無いという、面白い着眼であったが、「建築家は城をデザイン的興味の対象としない」などと言うと、井上章一さんに嫌みを言われるんじゃないかと心配してしまう。